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2022年年末座談会:前編/2023年3月24日(金)


座談会レポート(前編)

是枝裕和、諏訪敦彦、岨手由貴子、西川美和、深田晃司、舩橋淳、内山拓也、片渕須直、の映画監督7 人による、日本版CNCを求める会。持続可能な映画界と、そのためのより良い労働環境を求めて、なぜCNCが必要なのか?2022年の活動を振り返りながら、語ってもらった。

*日本版CNC設立を求める会、とは何ですか?

ーー日本版CNC設立を求める会、というものが分かりにくい、という声があります。CNCはセー・エヌ・セーと発音するフランスの機関で、「国立映画映像センター」というのが正式名称です。具体的に何をしているのでしょうか? 諏訪 大きな枠組みで言うと、映画・映像業界全体の支援をしているんです。製作費の支援や映画祭の支援、教育など、さまざまな形で業界の持続的な発展を支え ている機関ですね。ヨーロッパ映画を見ると 「CNC」というロゴが良く出てきますが、日本で公開されるフランス含めヨーロッパの映画の多くが、CNCの支援を受けています。観客の方も実は知らない間に接しているんですね。僕自身、フランスやヨーロッパで映画を作ろうとすると、必ずCNCの存在が出てくる。具体的には、CNCから映画の製作費の50%を貸してもらって映画を作ってきた。CNCはヨーロッパの小さな国や、アジア作品への支援もしていて、僕自身が恩恵を受けていたんですね。 ーー他国の作品を支援しても、フランスにメリットがあるわけですか? 諏訪 フランスに仕事を作るわけですからね。最近は、日本を舞台にした日本の作品でもCNCの支援を受けて編集や音の仕上げなどのポストプロダクションだけフランスでやる、というケースもあります。でも必ずしも独立系や非商業映画——いわゆる「ミニシアター映画」だけを支援しているわけではありません。CNCが助成する作品のうち半分は、日本の文化庁による助成と同じように、いわゆる小品や芸術的な作品が内容審査を受けて支援を受けますが(選択助成)、もう一方で、作品の内容を問わず、興行収益に応じてプロデューサーに振り込まれる「自動支援」というシステムもあります。さらに製作支援以外にも教育支援、コロナ禍で劇場を支えた流通支援などもあります。

ーーその「自動支援」というのはどういうことなんでしょう?


諏訪 収益に応じて、次回作の制作資金への支援という形で助成金 が返ってくるんです。 その財源は、 映画館の入場料の約11%、テレビなどは年間売上の5.5%、配信などからは2%と、映画にまつわるものの収益から自動的に一旦CNCに徴収されるんです。わかりやすく「入場税」などと呼んでいますが、国庫の税金が投入されているわけではないんです。あくまで映像産業の中での利潤の再分配で、作品の大小にかかわらず、映像文化を持続、発展させていくためのサステナブルな仕組みなんですね。それが、僕たちが「日本版CNC」と呼んでいることの根幹にあります。


ーー大きな映画が小さな映画を支える、というイメージですかね?


諏訪 いえ、必ずしもそうではなくて、大きな映画も小さな映画も両方を支える仕組みになっています。産業としての映画と文化としての映画両面を持続可能なものにしてゆく仕組みです。「助成金」というと国のお金をあてにして、というふうに誤解されがちですが、フランスでは あくまで映像産業の中でお金を回しているんですね。よく出来たシステムだと思うんですが、これが日本には全くない。それが顕在化したのが、コロナ禍で小さな映画館が立ち行かなくなってしまったことです。そこで、深田さんたちがミニシアター・エイドというクラウドファンディングを立ち上げた。結果的に映画ファンから総額3億3,102万5,487円もの金額が集まりこれは成功したけれど、 毎回何かあるたびにやるのか。映画界を恒常的に支えていくシステムが業界の中にはないということが、これによってはっきりしたんですね。コロナ禍の緊急支援をきっかけに長期的な仕組みがないといけないんだな、っていうことを実感したわけですね。フランスにはCNCがあり、韓国にはKOFIC(韓国映画振興委員会)という同様の独立行政機関があって、映画界を支えていて、「いいな」と思っちゃうんだけど、それで済ませちゃいけない。KOFICだって自動的に出来たわけじゃなく、映画人が声を上げて 勝ち取っていったわけですね。だから僕たちも、そうした機関の必要性を説いて、設立を求めていこう、として集まったんです。それが2021年の春ですね。


ーー自分たちでCNCを作ろうとしている、と誤解されがちですが、あくまで「日本版CNCを求める会」ですよね。どこに対して求めていくのでしょうか?どこか省庁に陳情をするということでしょうか?


是枝 陳情とか、日本版CNCが出来た場合どこの省庁に紐付くのか、といったことは、もう少し先ですね。なぜ日本版CNCが必要なのかということを、まずは業界に広めて理解を得ないとと思います。映画業界が一枚岩となって、こういう機関が必要だ、と訴えていく。表現の独立性を保つためにも、お上ではなく、業界主導で動かしていく仕組みを作りたいし、公助よりも共助をまず先に、というスタンスを明確にしていく。そのためにまずは提言を繰り返してく、ということだと思います。


諏訪 ここに訴えれば出来る、というものではないんですよね。


是枝 「税金を使って好きな映画を作りたいだけじゃないのか」って思われがちですが(笑)、そうじゃないんですよ。映画製作の労働環境を良くしたい。この1年ずっと提言を繰り返してきた感じです。

諏訪 まずは業界団体である映連(日本映画製作者連盟)に提案を持ちかけて、研究会という形の会合を月に一度持ってきました。 ーー映連は松竹、東宝、東映、角川という大手映画会社による業界団体です。ここがまずは動かないと、映画業界全体は動かないと思われます。 是枝 映連は「法改正をしたいなら国に言って」というスタンスなんですが、法改正以前に、まず映画業界の内部から動かないと、と思います。 諏訪 今、映連とはディスカッションを繰り返している段階です。映画の現場の労働環境をより良くして、持続可能な映画界にしていくのが日本版CNCを求める会の目標の一つですが、現在映連を中心に制作現場の環境改善のための仕組みづくりが始まっています。大変重要な一歩ですが、私たちとしてもこれが実情に即したより良いものになるよう注視したいと思っています。小規模な制作現場の実情がまだ伝わっていない面がありますし、 ハラスメント対策なども、ようやく動き出したところです。 西川 「日本版CNC設立を求める会」として組織する前に、「映画監督有志の会」としてまず集まったのが、是枝さん、諏訪さん、深田さん、舩橋さん。 舩橋 4人で2021年の春に、まずは最大手である東宝に提案しに行ったんですね。そこから、ユニジャパン(旧・日本映像国際振興協会。東京国際映画祭や日本映画の海外進出を支援)や各社を周り、映連へ提案しにいった。 諏訪 でもそれから1年、映連と話し合いをしてもなかなか具体的な進展がなくて、2022年の8月に改めて映連へ公開質問状を出すということになったんです。 ①「日本版CNC」の設立は必要ですか? ②興行収入を「日本版CNC」の財源の一部とすることを検討していただけますか? ③「日本版CNC」の設立に向けて正式な検討委員会を設置していただけますか? という内容です。結果、①、③については前向きな同意をいただいたんですが。 是枝 早い段階で、配信会社の人たちも話し合いに参加してくれてたんですが、映連がゼロ回答を続けたことで、「これは映連さんが主導して改革していくべきでは」と、いったん離れてしまいました。流石にそこが主導されないのに、配信会社だけが応じるというのは筋が違う、ということですね。 深田 ある配信会社は、この活動のためにいくら出せばいいですか、とまで言ってくれてたんです。日本版CNC設立に前向きに考えていてくれました。 是枝 実は、こういう活動は僕たちが最初な訳でなく、かつてもあったんですが、なかなか映連や全興連(全国興行者連盟)といった業界団体が動かないので、立ち消えになってしまっていた。僕らはそうならないよう、戦略を練り直しています。でも、その間にも問題は色々と発生しているので、映連への働きかけだけでなく、映画界全体との連帯の仕方を探ってきた、というのが昨年の活動でしたね。その一環として、日本映画監督協会とも連携できるようになったし、俳優たちも関心を持ってくれてるし、新たなメンバーも加わった。 ーー映連のゼロ回答というのは、どういうことですか? 西川 CNCのような統括機関ができることには賛同するけれど、その財源確保のための②の「興行収入の一部の循環」という提案に対しては、明確な意思表示が得られなかったということです。 日本の興行収入の分配は複雑で、興行会社、外国映画の配給・提供会社、製作委員会を形成する出資会社、アニメーション製作・配給会社など、数多く存在する利害関係者の 説得 は難しいので、一部を徴収するフランスのCNC方式の実現はできない だろう、ということです。コロナ禍前で約2000億円強あった興行収入の1%を仮にプールして教育や流通も含めた支援に回してみては、という提案だったんですが。 諏訪 具体的に法律が変わったら、すぐに動くんでしょうが、内側からは動かないですね。


ーー日本版CNCを設立するには、法律改正が必要になるということですか?


四宮 独立行政法人として作るには必要になるでしょうが、業界としての共助組織としてなら特には必要はないと思います。


諏訪 ただ、映連などがやらざるを得ない、という意味では法律を改正した方が良いでしょうね。23年4月から始動するという映像制作適正化機関(仮)( 映適)もそうです。これは労働基準法が変わったことで、映画の制作スタッフも労働者性があると 見做されたので、経済産業省からのトップダウンによって業界も動かざるを得なくなって、改革の準備が始まったという経緯だと思います。結局、外圧によってしか動かないのかな、と。


深田 まだ陳情段階ではない、というのはそこに直結すると思います。10月に、a4cや監督協会はじめとした団体が、韓国にヒアリングに行ったのですが、KOFICの方達と話をして印象的だったのが「もちろん法整備は必要で、色々話し合った。でも、この法律は私たちが求めたもの。政府や上から勝手に押し付けられるような法律ならば、突っぱねる。あくまで自分たち主導であることが重要です」ということ。日本だと制度設計も労使問題は、どうしても使用者=会社側が主導になってしまう。そうではなく、担い手側 からボトムアップしていかないと、と実感しました。


舩橋 この問題の根っこにあるのは、日本の映画業界では食えない人が多いこと。僕もアメリカで10年映画を作ってきて、日本に帰ってきて思ったのは、スタッフが食えなさそうだ、ということ。食えない業界に若い人が入ってくるのか、という問題があるし、多様性の問題もある。日本映画の場合、大手の寡占状態なんですね。映画の制作、配給、興行を同じ会社や系列会社が行っていて、それは独禁法違反の可能性がある。つまり小さい映画は流通網になかなか掛からない。一方、アメリカでは70年以上前に、映画制作と流通を同じ会社が持ってはいけない、といういわゆるパラマウント判決(Paramount Decree, 1948)ができたおかげで、寡占を防ぐことができた。


ーーアメリカでは映画会社がシネコンを持つことができない、ということですね、では、アメリカにはCNCのような機関がないのはどうしてですか? 舩橋 それは文化を国家が補助するという考え方がないからでしょう。資本主義国家ですから、市場原理を優先する。でも、その代わり独禁法による法律の縛りが機能して、 ストッパーになっているんですね。 深田 ただ、ネットフリックスなど配信が強くなったおかげで、この規制も徐々に緩和されていますが。映画会社が劇場チェーンを持つことが、もはや寡占とはならないから、ということでしょうね。映画界を取り巻く状況は劇的に、今変わっています。 (※配信が支配的な現在、パラマウント判決は当てはまらないという米司法省の判断が2020年に出て、いま米国市場も変化しつつある)

*若い世代にどう問題意識を持ってもらえるか


ーー2022年の 初めに岨手由貴子さん[1] 、春に内山拓也さん、夏には片渕須直さんがメンバーになりました。岨手さん、内山さんは30代で、この会の中でも若い世代です。

岨手 私はa4cに入るまで、CNCやKOFICについて 深く知っていたわけではないですし、映画業界の現状に不満があっても、そういうものだと思ってきました 。でも、ここで勉強したことで、それまで飲み込んできた不満はやはり間違っていたし、業界の構造を見直すことで解決できることもたくさんあると分かったんです。 私より下の世代は、映画界の構造について 改めて 考え る機会も時間もない気がします。特に現場スタッフは、過酷な労働環境 でひどい目に あっても、撮影が終わればすぐに 次の現場が待っている。 、目の前の仕事に追われていて、映画業界の構造に問題があるというところまで考える余裕が ないんですよね。 それでも、 ここで働く人たちが一枚岩にならないと何も変わらないので、 諏訪さんたちに引っ張ってもらいつつ、私や内山さんは若い世代 への橋渡し役になれればと思っています 。 ーーa4c公式HPに載っている動画 も岨手さんと内山さんがメインで作られたんですね。 岨手 はい。この活動は趣旨を説明するのが難しいですし、どうすれば私たちの提案を分かりやすく伝えられるかを考えて動画を制作しました。意識が高い 人たちだけで やっている活動だと見られ がちですが、これは業界で働く人や映画ファンに密接に関わる問題です。 もっと 裾野を拡げて、様々な立場の人が一緒に考えていくべきだと思います。 内山 多様的な内容の作品を、予算をしっかりとかけて作れる体制の数には現状だと限界があります。大規模、中規模以下、どちらでも作品のクオリティを担保しながら労働環境を守る製作を目指さなければいけないと思っています。この両方をしっかりと維持しなければキャストやスタッフの作り手を支えられないですし、新しい世代を生み出せずこれからの映画業界にどんどん人が居なくなっていくか、諸外国から更に孤立し、日本映画界が埋没していくであろう危機的状況だと思っています。映画業界がどんどんと保守化による弱体化をしているため、新しい才能に賭ける余力や気概が本当に失われつつあると感じています。


西川 私も世代は違いますが、2021年終盤にこの会に参加するまでは、映画界の仕組みを変えなくては、という意識が薄かったんです。もちろん良い状況ではないとは感じつつ、あえて耳を閉じてきた気がします。 私が仕事を始めた90年代の終わり頃は、映画界は「斜陽産業」と呼ばれていて、 そもそも取り残されたような業界だと自覚した上で 入ってきたし、監督としてできることは苦しい中でもひたすら自分の作品を作ることだけだと思いこんでたんですね。でもコロナ禍で岨手さんたちとオンラインで話す機会があって、映画監督は横のつながりがない、つまり自分達に共通する問題点を知る機会すらなかったということに気づいたんです。キャリアを重ねても海外を回っても予算は大して増えず、制作条件が上向かないのも、自分の能力の問題だと思っていたんですが、実績がある著名な先輩の監督たちでも日本国内での撮影環境は決して豊かではないし、さらに若い作り手たちは、私よりももっと苦しい思いをしている。これはもう、近々沈むんじゃないか、という感覚を覚えたところに、2021年春から始まった日本版CNC構想の活動の話を聞いたんです。


ーー映画制作の現場に若い人が入ってこない、入ってきてもやめてしまう人が多い、というのは映画界の構造に問題があるし、業界が先細りしていく、ということに大手の人たちは[1] [2] 危機感を持たないんでしょうか?例え今の業績が良いとしても。


西川 業界の将来のために下支えを作ろう、という監督たちの提案に対して、当然賛同の流れができるのではと思っていたんですが、業界組織の反応が鈍いと聞いて驚いた。その状況は根深いものがあるな、と思いましたね。ジェンダーや子育て支援の課題なども含めて、今の業界のトップの世代や面々には認識が薄いのじゃないかと感じてしまう。他の業界が死に物狂いでシフトチェンジに努めていても、治外法権のように人事もルールも固着してる。そこで岨手さんを誘って参加し、一緒に少しずつ勉強し始めて、2022年3月のキネマ旬報の座談会記事をきっかけに、内山さんが加入してくれたんです。


内山 数年前から、若手の自分達が映画を作るためにはどうしたらいいか、という作品単位のことだけではなく、日本映画界の構造に危機感を覚えていました。誰かに任せるだけの他人事の姿勢であれば、きちんとした体制や基準が全体に浸透するまでに膨大な時間を要してしまうなと、CNCやKOFICなど各国の仕組みについて勉強をしていました。ただ、調べれば調べるほど一人ではどうしようもないと途方にも暮れていました。そんな中で前回の座談会記事を見て、同じ危機感を持って行動をしている先輩方が居て、統括する機関が改めて必要なんだと思い参加しました。日本版CNCのような統括、支援機関の設立で最終的に凌ぎを削る実力主義になったとしても、多角的な映画作りが持続できなければなりません。脈々と受け継がれてきた日本映画の歴史という縦軸に、グローバルな視点を持った映画作りという横軸を縫い合わせて、僕らの世代から更に下の世代にどのようにバトンをリレーしていくのか。未来の担い手や観客に何を託していきたいかを考えていきたいと思っています。


*アニメーションの労働環境は一歩進んでいる!?

ーー片渕さんがこの会に加入した経緯を教えてください。アニメーション監督であり、日本映画監督協会のメンバーでもあります。 片渕 僕のは風変わりな作風で、あまりアニメファン向けなものを作ってないのかもしれないんです(笑)。それで少しでも従来のアニメファンの外側にファンを増やしたい、劇場にお客さんを増やしたいと思って舞台挨拶を各地の映画館でやっていたんですね。コロナ禍で小さな映画館の苦境をどうにかできないかと思っていたところ、深田さんにミニシアター・エイドの活動に誘っていただいたんです。深田さんはアニメもお好きですし、壁がないというのを以前お会いした時から感じてたんですね。その後、a4cについて伺って、これはアニメーションの世界にも直接関わりがある、と感じて参加できたらと思ったんです。 深田 最初はアニメーション業界の現状を教えていただく、という形で勉強会を開いたんです。


片渕 アニメーションはすごくブラックな業界だと思われていた時代が長かったんです。やすいし、きつい、と。だから若い人がこの世界に入ることを親に反対されたり、地方から東京に来てもアパート代が払えない。でも人手は必要なので、アニメスタジオを地方に作ったりしていたんですが、徐々に世の中の景気が悪くなりすぎて、アニメ業界の方が一般に比べて給与的にマシ、という逆転状況が起きたんです。さらに中国や韓国への外注も、人件費が既にあちらの方が高いからあまり出せなくなった。


ーー良いのか悪いのかわからないけど、結果的にアニメの世界はブラックではやっていけなくなった?


片渕 でも、すぐにそうなったわけではなく、国内でまだ十分に教育を受けてない若手が現場の作業で食い潰されたり、未教育なままの作業で上がってきた作画を監督自身が直接、それも大量に修正することになったりと、まだまだ人工(にんく)に頼る構造。僕は「この世界の片隅に」では、本当にご飯を食べる時間もなくって、うまい棒を手づかみで食べながら締め切りまでの1秒を刻みながら修正していた。「納豆味がおいしいね」って言いながら(笑)。僕らの仕事は、作品の良し悪しが、下請けも含めて全体の能力が底上げされることは直接的に影響されるんです。だから業界の体質が改善されれば、1秒を刻みながら修正もしなくてもいい状況になる可能性がある。それを実際に行ったのが「この世界の〜」の制作会社の社長で、若い社員を社員採用して、教育し、育てていこうという方針をその後とるようになりました。よその大手の会社でも教育に力を入れるところがたくさん出てきています。いわば各社でスタッフの抱え込みが起こっているわけなのですが、アニメーションの制作では横のつながりの意味が大きくて、お互いに下請けになりあいながら業界全体で全体の作品を作っている感が強くなってきています。


ーーよその現場を監督同士はあまり知らない、という実写とは違いますね。


片渕 でも今別の問題が発生していて、結局、修正されるのであれば、雑な絵を納品しても同じだろう、という意識も出てきてしまっています。本来、アフレコに間に合わせるための緊急避難的なものだったのが、定式化してしまっている。本来はどうやって作っていたのかが忘れられてしまっている。やはり、業界全体の意識改革が必要だし、そのためにはa4cが求める構造改革は重要だと感じて、参加したんですね。


ーーさっき 岨手さんがおっしゃていたように、構造に問題があることに気づかない、ということもありますよね。


片渕 アニメではもう一つ問題があって、例えば、テレビシリーズだと「監督」と「演出」が分かれていて、著作隣接権、つまり印税は(それが支払われる契約になっていた場合ですが)監督にしか払われないんです。ここでも「本来の姿」に対する振り返りの意識が極めて小さくて、現状が全てと思い込まれている。自分の立場の認識が不明確で、改善しようという動きもない。無抵抗なんです。自分の立場をわからない、というか。最近は、さらに監督の上に、総監督ができてしまった。


(後半へ続く)


2022年12月27日(火)収録

協力・座談会進行:石津文子



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